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村上春樹著「1Q84」を読んで。

2009-06-16

舞台は1984年の日本。小学校の同級生で2年間を共に過ごすものの、別離後再会することなく30歳を迎える青豆と天吾の主人公二人の物語が交互に進行していきます。

スポーツジムのインストラクターで殺し屋の女性・青豆は、首都高速の非常階段を降りることで、一方、予備校の数学講師で小説家の男性・天吾は、17歳の美少女・ふかえりが書いた小説「空気さなぎ」の手直しをすることで「1Q84」の世界 ―空には月が二つ浮かび、目には見えない山羊やリトル・ピープル、そして空気さなぎが存在するねじれた世界― に足を踏み入れます。一度1Q84の世界に入り込むと二度と現実の1984年には戻れない一方通行の扉を開けた二人の繋がりを暗示する音楽・ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」が度々登場し、淀んだ空気感を醸し出しながら物語は展開していきます。

読字障害を持つふかえりが書いたフィクションのような「空気さなぎ」は、ふかえり自身の実体験した排他的な新興宗教の実態を描いていて、それは現実そのものだと主人公の二人が徐々に気付いていきます。小説と現実が交錯しながら同時進行していく世界は、暴力、殺人、両親との確執、歪んだ愛情、人間の秩序などを問題視し、人間の内面に潜む葛藤や悩みが浮き彫りになるようでした。

発売直後から爆発的な売り行きとなった「1Q84」、物語に登場するヤナーチェクの「シンフォニエッタ」のCDも連鎖するように品切れ状態になっているそうです。

早速、空に月が二つ浮かぶ世界に迷い込みそうになる音楽「シンフォニエッタ」を聴いてみながら、時は二度と巻き戻せないと十分に認識して、この現在を大切に生きようと思いました。

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