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工芸品「べっ甲」

2011-02-24

べっ甲の工芸品は長崎を代表する名品として有名ですが、べっ甲細工が長崎で最初に紹介されたのはポルトガル船が長崎に入港した近世のことで、17世紀初頭から長崎に住む中国人の手によって製作が始まったと言われています。寛永年間期にはその技法を唐人から学び、日本人の手によるべっ甲細工の製作が盛んに行われるようになります。

べっ甲細工は、珊瑚礁域に生息するウミガメの一種タイマイの甲羅を材料として作られた工芸品で、原料が日本本土近海では採れないため多くは輸入に頼っていました。鎖国時代に唯一外国との窓口であった長崎は、容易にべっ甲の原料が入手できたので、盛んに製作が進み独特の技法が発展して、上方や江戸などへ伝えられたと言います。

長崎で製作されたべっ甲製品は江戸でも人気で、櫛、かんざし、帯留め、ブローチなどの装飾品や、鷲や鯉、帆船を形取った工芸品に加工され珍重されました。あめ色が強いほど良いものとされ、浮世絵に描かれた遊女たちは髪に何本もの簪を挿して着飾っていますし、徳川家康がべっ甲の眼鏡フレームを愛用していたことは有名です。

現在は、ワシントン条約によって原料となるタイマイの貿易が禁止され、日本では1992年限りで輸入が禁止されたので、それまでにストックされた原材料等を有効利用するなどしています。 また近年は色模様を似せて加工された安価なプラスチック製の装飾品なども製作されています。また、動物愛護などの高まりからべっ甲製品の販売量は次第に減ってきて、べっ甲細工の伝承が危惧されています。

長崎では平成14年に、市内松ヶ枝町に「長崎市べっ甲工芸館」が開館され、貴重なべっ甲作品約300点を展示し、歴史と伝統に培われたべっ甲細工の技術と技能を保存しています。

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