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文庫小説「あなたへ」

2012-03-08

高倉健主演の6年ぶりの新作映画「あなたへ」(脚本・青島武)を原案に創作された小説(森沢昭夫著)が、幻冬舎文庫より出版されています。先日、取り寄せて一気に目を通しました。

物語は、放浪の俳人・種田山頭火の次のようなたくさんの俳句が取り入れられ、これらを軸に小気味よく展開されていきます。俳句を登場する順に紹介すると、「蜘蛛は網張る私は私を肯定する」「分け入っても分け入っても青い山」「月のぼりぬ夏草々の香を放つ」「こんなにうまい水があふれている」「行き暮れてなんとここらの水のうまさは」「からむものかなしい蔓草の枯れてゐる」「風鈴の鳴るさへ死のしのびよる」「鶲また一羽となればしきり啼く」「うれしいこともかなしいことも草しげる」「ひとりとなれば仰がるゝ空の青さかな」「それもよからう草が咲いている」「捨てきれない荷物のおもさまへうしろ」「このみちをたどるほかない草のふかくも」「咳がやまない背中をたたく手がない」「雨ふるふるさとははだしであるく」。

この中で、3回登場する句が「ひとりとなれば仰がるゝ・・・」、2回登場するのが「分け入っても・・・」と「それもよからう・・・」の句。

また、病気のため53歳で亡くなる主人公の妻が座右の銘として残した、「他人と過去は変えられないけれど、自分と未来は変えられる」と「人生には賞味期限がない」の二つの言葉。

とても含蓄のある言葉で印象に残りました。ますます8月の公開が楽しみです。

1331202138_img005「あなたへ」(森沢昭夫著、幻冬舎文庫)