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大正新版画

2013-07-28

浮世絵復興に尽力し、「大正新版画」という芸術を世に送り出した渡邊庄三郎(現 渡邊木版美術画舗の開祖)について書かれた本「最後の版元 浮世絵再興を夢みた男・渡邊庄三郎」を夢中になって読みました。著者は脚本家・ノンフィクション作家として活躍中の高木凛さんです。

ネット上の本の内容紹介データベースで、「1885年生まれの渡邊庄三郎は、貿易商として浮世絵に触れ、その美しさに心を奪われ、なんとかこの芸術を日本に残せないかと、浮世絵復興へと走り出す。それは、伝統芸術を守っていくだけでなく、新たな浮世絵の世界、つまり「新版画」を作っていくという大きな企てだった。—日本人が知らない、世界とジョブズに愛された日本の芸術—それは「新版画」。仕掛けたのは「最後の版元」。伊東深水、橋口五葉、川瀬巴水と組んで、世界から賞賛される「Shin‐hanga」という芸術をプロデュースした男の76年。」を読んで、すぐに取り寄せた次第です。

本文エピローグでは問答形式で、庄三郎が版画の力、版画の美とはどういうものかと問われたのに対して、「版画の世界的となったのには、それだけの根底がある。偶然の奇観ではない。版画は肉筆とは違った特色をもって肉筆画の短所を補ふことが出来るのである。運筆の拙さも、一々の描線の不統一も、彫刻の技によって洗練され、摺刷の工芸的技巧の力が加はって、肉筆物のような華美な着色を施さないでも、紙の白さと対映して、肉筆の場合とは、別様の趣ある力強い墨色が現はれ、墨色の一種の妙味を示しうるのである。」と答えていること。また、大正新版画について何故、制作しようと思われたのかと尋ねられると、「古版画を研究して其特長と欠点を見出した私は、徳川末期から数十年来堕落に任せて顧みなかった木版画をその儘に打ち棄て置くのに忍びませんでした。芸術的価値のある現代版画を制作し、将来に作り残すことを考えたのです。」と答えていること。また版元というものについてどう考え、どうあるべきかと問われたのに対しては、「新版画に於いては、画家の個性を発露することが主なのですから、三者共同と云ふよりも彫師や摺師が画家の助手に成って居ると云ふほうが適当でせう。それゆえ版元の役目は彫師・摺師を作者に忠実にという条件にどう馴染ませるか、またその作者をどう理解させるかということにつきます」と考えていたことなどが紹介されています。

当美術館では開館以来この7年半の間に、日本の伝統文化の浮世絵と並行して浮世絵研究の上に立つ大正新版画の作家たちの作品も一つの大きな軸として展示を行ってきました。中でも、橋口五葉、川瀬巴水、吉田博、伊東深水、笠松紫浪、土屋光逸、鳥居言人についてはそれぞれの特別展示を、同じく高橋松亭、名取春仙や小原祥邨等については他の作家たちとの合同展示を行い、紹介してきました。今後も、折に触れ続けていきたいと考えています。

今、この本の上梓に感謝し、浮世絵再興と新たな浮世絵の世界「新版画」を作り、日本はもとより、世界的に評価名高いこれらの作家たちを世に送り出した渡邊庄三郎の生涯を知ることができて感動でいっぱいです。

1374975205_img002「最後の版元 浮世絵再興を夢みた男・渡邊庄三郎」

(高木 凛著 講談社発行)