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長崎古版画について

2008-06-22

長崎古版画は、鎖国時代の日本で唯一世界に開かれた地・長崎で生まれた独特の版画で、「長崎版画」とか「長崎絵」とも言われています。

1644年(正保時代)頃から1870年(幕末時代)頃にかけて制作され、長崎の代表的な土産物として国内外で人気がありました。が、当時は、美術品として描かれたものではなく、ほとんどの版画に作者のサインや落款は見あたらず年代の記載もありません。しかし、異国に関する知識の豊富さや正確さも相成り、現在では、当時の長崎を知る上で貴重な文化資料としてもクローズアップされています。

長崎古版画の特徴は、異国情緒溢れる独特の表現と素朴な風合いにあると言われています。

長崎と密接な関係にあった唐人や南蛮人、異国の品物や動物、唐船や南蛮船などの異国的な題材を、単純な構図の中に描いてあります。

また、素朴な風合いを表現できているのは制作技法によるものと考えられます。初期の頃は、墨版摺りに簡単な彩色を施したもの、若しくは合羽摺りという彩色方法が多く用いられています。合羽摺りとは、上方絵(京・大坂で制作された絵の総称)に多々見られる技法で、色部分の形に厚紙を切り抜き、切り抜いた部分に刷毛で絵具をつける方法です。多色木版画より簡易な彩色法ですが、細やかな表現には向いていません。しかし、この合羽摺りとエキゾチックな題材がうまく融合して、長崎古版画独特の素朴さを表現できています。後期には、江戸で浮世絵を学んだ大和屋店主の磯野文斎が多色木版画の技術を取り入れた為、浮世絵版画に近い繊細で質の高い版画作品へと移行しますが、それはかえって長崎古版画の持ち味を一変させ、独特の個性を埋没させてしまったとも言えます。

現存する原画は世界的に極めて少なく、歴史的・美術的資料としても大変貴重なものと言われている長崎古版画です。 長崎に生まれ育った者だからこそ、この地で生まれた長崎古版画に格別の思いがあります。当館にも数点の所蔵作品がありますが、貴重な作品を展示して皆様にご覧いただくのはもちろんですが、後世に受け継いでいく使命もあると大きく考えたりしています。

『蛇踊囃方之図』

『阿蘭陀船図』