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大正新版画運動と伊東深水

2014-01-17

赤い着物が印象的な鏡に見入る妖艶な女性を描いた「対鏡」は、伊東深水が18歳の時の作品で大正新版画運動の第2作目の作品として知られています。

大正新版画運動とは明治40年頃から起こった版画運動で、浮世絵版画の伝統を継承しながら浮世絵の復興と近代化を目指したものです。運動の提唱者である版元・渡辺庄三郎は、鏑木清方に学び文展・院展等で風俗画家として注目されていた新進の伊東深水を美人画の世界に見つけて、彫師・摺師共に一流の腕利きを起用し深水に美人画を描かせました。

年若い深水は、髪の毛の緻密さや背景の描き方、着物の模様や皺の付け方などテクニック的には初期的な部分があるものの、「対鏡」(大正5年作)では白いうなじや体をくねらせたポーズが艶めかしい色気のある女性を、「遊女」(同年作)は上目使いの妖しい倦怠感を漂わせた女性を凛々しく描いています。その後、多くの美人画や風景画を創り出し、浮世絵版画を抜け出し近代的感覚を取り入れた清新な表現の深水の版画は人々を魅了し、大正新版画運動の第一作目の作品を描いた橋口五葉と並び大正新版画の二大美人画家と呼ばれるようになり、誰もが愛する日本を代表する画家となりました。

開催中の「伊東深水木版画展」では、深水の美人画と風景画が同時に楽しめる展覧会です。皆様のご来館をお待ちしております。(N)

1389927098_NONALNUM-B0CBC5ECBFBCBFE5A1D6C2D0B6C0A1D7伊東深水「対鏡」(大正5年7月制作)

1389927098_NONALNUM-B0CBC5ECBFBCBFE5A1D6CDB7BDF7A1D7伊東深水「遊女」(大正5年12月制作)