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フィレンツェとサンドロ・ボッティチェリ

2008-07-14

ルネッサンス運動発祥の地であるフィレンツェは、街全体が芸術に溢れています。フィレンツェ市街全体が一望できる小高い丘の上にあるミケランジェロ広場からは、街の中央を流れるアルノ川やヴェッキオ橋、そしてフィレンツェを象徴する大聖堂ドゥオーモの半球状の屋根がひと際目を惹きます。

最近、その大聖堂の壁面に日本人観光客が落書きをする事件があり、同じ日本人として悲しくて恥ずかしい思いがします。イタリアを訪れると、各都市の観光名所や交通機関、建築物の壁等への落書きの多さに驚きますが、これはイタリア自国民によるものが大半だそうで、落書きを野放しにするイタリアの風潮を物語っています。幸いに、日本人落書き事件が発端となり、新しく選出されたローマ市長は落書きに対し厳しい罰則条例を用意するようで、一部イタリア人青少年の慢性的な悪癖を減らすことになるでしよう。

今日は、フィレンツェを代表する芸術家「サンドロ・ボッティチェリ」(1445~1510年)をご紹介します。彼は初期ルネッサンス期で最も業績を残した芸術家で、古典を感じさせるなかに繊細で洗練された優美さや華麗な色彩で宗教画や神話画を多く描いており、命の尊さや愛を感じさせる作品を手掛けています。その特徴的な表現は、初期ルネサンスとフィレンツェ派の典型として広く知られています。当時のフィレンツェ絶対的権力者であるメディチ家は、ボッティチェリの芸術面だけでなく、ダンテの『神曲』を諳じ当時の国際語だったラテン語を誦する知的要素を併せ持ったボッティチェリを高く評価し、芸術活動の援助を行い次々と作品を創らせました。

フィレンツェの黄金時代を象徴する絵画が鑑賞できるイタリアでも有数の美術館「ウフィッツィ美術館」の第10室から14室に、ボッティチェリの名画が展示してあります。この美術館は、世界中から多数の来館者が押し寄せることでも有名です。私が数年前に訪れた際も、美術館内の人気のブースは多くの人でごった返し、ゆっくり鑑賞できる状態ではありませんでした。ボッティチェリの代表作の集まったブースもたくさんの人で溢れていましたが、妖艶な三女神が花の絨毯の上で優しく微笑んでいる『プリマベーラ』、貝殻の上に乗り海原を漂う絶世の美女から愛を感じる『ヴィーナスの誕生』などの作品を目にした途端、周囲のざわめきが静まり空気が留まったような不思議な緊張感と、周囲の絵画を圧倒し輝いているような感覚に陥りました。

ルネッサンス芸術が、フィレンツェからローマやヴェネツィアへと移っていく中、ライバルでもあったダ・ヴィンチやミケランジェロはローマに拠点を移していきます。しかし、ボッティチェリはあくまでもフィレンツェでの生活にこだわり、生涯のほとんどを祖国で過ごします。ボッティチェリ自身、フィレンツェを深く愛した一人であったに違いありません。

ルネッサンス芸術が色濃く残るフィレンツェ、“何度でも行きたい”“できれば住みたい” そんな魅力ある都市でした。

ミケランジェロ広場からフィレンツェ市街を望む

サンドロ・ボッティチェリ 『ヴィーナスの誕生』

ウフィツィ美術館蔵