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版元「渡辺庄三郎」 

2008-08-01

大正新版画運動の提唱者である版元「渡辺庄三郎」(1885~1962年)は、横浜の貿易商で浮世絵輸出業に従事していて、日本の伝統芸術である浮世絵の美しさに魅了される中、日本国内で顧みられなくなった浮世絵が次々に海外へ流出していく状況に心痛していました。

このままでは日本の伝統芸術が消滅してしまうと危機感を覚えた庄三郎は、明治44年(1909年)渡辺木版画店を創業し、浮世絵研究で著名な美術史家とともに浮世絵研究会を発足させ、学問的な裏付けを基に質の高い浮世絵の複製品を刊行させます。これは複製というよりむしろ復元としての性格が強いものでした。

そしてまた、自ら版元(出版元)となり、より芸術性の高い木版画を制作しようと、浮世絵版画の復興と近代化を目指した大正新版画運動を興します。そうして新版画第一作目の『浴場の女』の制作者である「橋口五葉」をはじめ、「伊東深水」や「川瀬巴水」等の日本を代表する版画家が誕生し、浮世絵の美人画・役者絵・風景画の三大主題を主に新しい時代の木版画を制作しました。

浮世絵の衰退という大きな時代の流れに逆らい日本の伝統木版画の復興を目指した庄三郎と、新しい版画芸術の創造に挑んだ新版画家達の情熱は、まぎれもなく日本の近代版画隆盛の礎となりました。

大正新版画運動が果たした役割は新しい伝統的木版画の追求であり、失われていく日本木版画の伝統美をいかに存続させ継続させていくかという問いかけでもあり、その課題は現代にも引き継がれています。

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橋口五葉 『浴場の女』 大正4年制作 千葉市美術館蔵