山本美術館 > ブログ > 「ニューヨーク・ボストン旅行記」 10

「ニューヨーク・ボストン旅行記」 10

2008-08-25

10 ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展(東京六本木 国立新美術館)

ヨーロッパ有数の貴族として栄誉を誇ったハプスブルグ家のコレクションを有するこの美術館と、「静物画の秘密展」というタイトルに惹かれ、ニューヨークから帰国した当日に鑑賞しました。

「静物画stilleven」は17世紀のオランダで名付けられ、新しい美術ジャンルの一つに加えられましたが、その歴史は古代ギリシャ・ローマ時代の芸術から始まると言われています。フランス語では「nature morte」で「死んだ自然」という言葉です。確かに摘まれた花や果実は命の綱を切られてはいますが、その儚さが存在に美や輝きを与えています。なぜ「静かな」「物」に惹かれるのか、その秘密を探る今回の企画展はウィーン美術史美術館の豊富なコレクションの中から厳選された75点の出品構成でした。

17、18世紀のヨーロッパの教養アカデミーでは、芸術的創意の高い宗教画や神話画を高い位置に評価し、生命のない自然を模倣する静物画は低い地位に位置づけするという思想でした。しかし、実際の制作現場の画家たちは卓越した技術で現実のものを模倣する質の高さから静物画を好んで描きました。

見た目をそのままに質感を再現する究極ともいえる卓越した技量で、絹・ビロード・ウール・亜麻といった生地の違い、銀製や錫製の食器の異なった光沢などを描き分けています。本物と見紛うまでに鑑賞者の錯覚を誘う静物画は、「騙し絵」と呼ばれたりしています。今回の展覧会は、そこから一歩踏み込んだ自然物の見かけの美しさは、うつろい易さや儚さと結びつくと「虚栄(ヴァニタス)」というジャンル分けで、この世のはかなさの寓意を表現した作品を一部展示してありました。

今回の注目作品の一つがディエゴ・ベラスケスの『薔薇色の衣装のマルガリータ王女』で、これは嫁ぎ先のオーストリアのハプスブルグ家に送るお見合い写真として制作されたものです。ベラスケスは、スペイン国王フェリぺ4世の娘マルガリータ・テレサの肖像画を全部で5枚描いており、私はこれの他に王女の肖像画をプラド美術館で観たことがあります。今回展示されたものは王女の3歳の幼少時を描いた作品です。特徴ある容姿の王女を最低限に抑えた筆遣いの色彩で描き、3歳の子供の魅力をよく表しています。他にルーベンス、ブリューゲルなど優れた画家の作品を鑑賞し、静物画の魅力と重要性を認識しました。

1219658887_img542

ディエゴ・ベラスケス

  『薔薇色の衣装のマルガリータ王女』