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美人画について~(8)-1~

2008-09-21

8-1、美人画を際立たせるテクニック 彫りの超絶技法「毛割(けわり)」

浮世絵は、絵師・彫師・摺師の共同作業で制作しますが、三者の光る技があってはじめて一つの作品が仕上がります。ここでは、彫り・摺りのことについて美人画を見てみたいと思います。

浮世絵の、特に美人大首絵を鑑賞する時はその人物の髪の流れるような描写の美しさに惹き付けられることが多く、髪の表現は浮世絵最大の見所とも言えます。髪の生え際を表現する「毛割」と呼ばれる彫りは、彫りの中でも最も難しい技術を要するため師匠格の彫師が担当し、このような彫師は頭彫と呼ばれています。

絵師の版下絵には、細かい髪の毛の描写はしていないのが通常で、大まかに描かれた版下絵の意図するところを汲んで、彫師のパターン化した技術で一本一本の毛を美しい線で彫り上げていきます。もちろん担当する彫師には絵師同様の高い美意識と高度な技術が必要で、頭彫の腕の見せ所となっています。

毛割には、すっと長く毛を彫る「通し毛」、生え際を櫛で梳いたように見せる「八重毛」などの表現の仕方がありますが、より複雑な髪の動きを表現するものは歌麿の美人大首絵の最盛期に発達したそうです。

歌麿の『五人美人愛敬競 八ツ山平野屋』を観ると、生え際には「八重毛」の彫が使われ櫛で梳いた感じが表わされ、額の生え際や襟足などにはほつれ毛の先まで美しく表現されています。

江戸末期になると毛割の表現は形式化されていますが、この時期から明治にかけての錦絵の技術は最高レベルと言われており、彫師の名前も作品に記されることが多くなっています。

浮世絵の髪の表現に費やされた労力や当時の美意識の高さには、常に驚かされます。

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喜多川歌麿『五人美人愛敬競 八ツ山平野屋』

太田記念美術館蔵

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喜多川歌麿『青楼七小町 松葉屋内喜瀬川』

アムステルダム国立博物館蔵