山本美術館 > ブログ > 美人画について~(8)-2~

美人画について~(8)-2~

2008-09-23

8-2、美人画を際立たせるテクニック 「空摺り(からずり)」

絵の具をつけない版で摺り、紙に凹凸を付けることで模様や質感を出す技法を「空摺り」といい、主に人物の輪郭線、衣紋線、布の模様、雪や白布などの白いものの表現に使われます。空摺りの効果を最大限に発揮するには強く摺らなければならないため、それに耐える強さと厚みのある高級紙が用いられます。

空摺りが本格的になったのは錦絵が始められた明和期(1764~72年)で、鈴木春信の中版錦絵には最高級の奉書紙が用いられ空摺りの技法が多く、また、春信は技法の面でも創意工夫をして錦絵をより完成度の高いものに仕上げることに成功しています。

春信の作品『源 重之』は軽やかな波を、『三十六歌仙 紀 友則』は人物の歩く河原に積った雪を、『かわらけ投げ』は山との間の霞を、『坐鋪八景 塗桶の暮雪』は塗り桶に伸べられる真綿を墨線を用いずそれぞれ空摺りで表現していますが、ふっくらとした質感で大変美しく仕上がっています。

美術館などでは作品がガラス越しに展示されていることが多く、その本当の風合いが伝わりにくく残念ですが、このような技法を作品から見出すことが出来ると本当に嬉しくなります。

1222151295_img597

鈴木春信『源 重之』 MOA美術館蔵

1222151295_img614

鈴木春信『三十六歌仙 紀 友則』 千葉市美術館蔵

1222151295_img615

鈴木春信『かわらけ投げ』 東京国立博物館蔵

1222151295_img616

鈴木春信『坐鋪八景 塗桶の暮雪』 シカゴ美術館蔵