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美人画について~(8)-3~

2008-09-25

8-3、美人画を際立たせるテクニック 「雲母摺り(きらずり)」

雲母摺りとは、真珠のような光沢のある雲母(うんも)を粉にした材料を使用した摺りの技法で、背景全体に使われることが多く、雲母独特の輝きが作品を豪華な印象に仕上げます。

雲母摺りの代表的な作品として真っ先に思い浮かべるのは、喜多川歌麿や東洲斎写楽の大首絵を中心とした作品で、これらが出版されたのは寛政期(1789~1804年)です。浮世絵版画の世界で最高級の材料の「雲母」は、使用する量でキラキラ度が変化し、通常の絵の具より扱いが難しく摺る時間もかかるので、背景全てに雲母を入れるというのは贅沢で大胆な試みでした。歌麿のように超一流で人気がある絵師の作品や高額で販売出来る作品に限って使用されていました。しかし、新人であったにも関わらず雲母摺りの作品でデビューしたのが東洲斎写楽で、異例の扱いといえます。

雲母摺りの下地に予め紅や黒色などを摺っておくと色付きの雲母摺りが出来上がります。歌麿の代表作『婦人相学十躰 浮気之相』は、白雲母の清々しい感じが夏の湯上り美人によく合っています。『青桜仁和嘉女芸者之部 扇売 団扇売り 麦つき』の背景には黒雲母が使われ、人物が浮きあがって見える効果をうまく活用し作品を引き締めています。『婦女人相十品 煙管持てる女』は、雲母摺りのバックに煙草の煙りを空摺りで表現している贅沢な摺りの作品です。

雲母摺りを施した作品群は、光の加減や見る角度で光沢の美しい変化を楽しめ、素地のままでも十分に艶やかな女性たちをより一層際立たせています。

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喜多川歌麿『婦人相学十躰 浮気之相』

東京国立博物館蔵

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喜多川歌麿『青桜仁和嘉女芸者之部 扇売 団扇売り 麦つき』

ボストン美術館蔵

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喜多川歌麿 『婦女人相十品 煙管持てる女』(一部分)

東京国立博物館蔵