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美人画について~(8)-4~ 

2008-09-27

8-4、美人画を際立たせるテクニック 「ごま摺りと透かし」

「ごま摺り」は、布の質感を表す際に用いられる技法で、一度摺った上に馬連を弱く当てて色を重ね、細かいムラのあるざらざらとした薄物の布地を表現します。また、縦線、横線の版を別々に作り重ね摺ると肉筆では描きにくい薄布地や網目地の布が表現できます。

鳥文斎栄之の『青桜美人六花仙 越前屋唐士』は、黒色の薄い着物から下着が透けて見えていますが、絽や紗の薄物の着物地の表現にごま摺りは最適です。

この透けて見せる表現を好んだのは喜多川歌麿で、『霞織娘雛形 夏衣装』は、髪に簪を挿す手前の女性と衣桁(いこう)に掛けた絽の織物から透かし見られるもう一人の女性のぼんやりと浮かぶ顔が対比的に扱われていて面白い効果が生まれています。『婦人泊り客之図』は、3枚続きの大画面を利用して広い座敷に張った蚊帳の中と外に宿泊客の女性たちを配し、蚊帳の中では布団の上に座る姿をベールがかかったようにぼんやりと、外では長身の立ち姿をくっきりと、老若の別も分けつつ歌麿美人の多様な魅力を表現しています。

墨版や色版を重ね摺る木版画の技法を最大限に生かし、布越しに透かし見せる魅力的な美人画は、観る者を特殊な視覚効果で楽しませてくれます。

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鳥文斎栄之『青桜美人六花仙 越前屋唐士』

 山口県立萩美術館・浦上記念館

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喜多川歌麿『霞織娘雛形 夏衣装』

ブリュッセル王立美術歴史博物館蔵

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喜多川歌麿『婦人泊り客之図』 慶応義塾蔵