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橋口五葉について~(4)~

2008-10-11

五葉は、大正期に入ると多くの浮世絵論文を書き、浮世絵研究家としても知られるようになります。当時は国内の浮世絵版画が少なくなってきた時代ですが、海外では国内を上回る大きなコレクションが形成されていました。その海外コレクターと親しく交流していた三原繁吉は、繁吉自身も国内有数の浮世絵コレクターで五葉の後援者でもあったので、五葉は三原コレクションを通じて多くの浮世絵作品に触れ研究をすることができました。 五葉が研究の成果を初めて発表したのは大正3年の「美術新報」で、続いて「新小説」にも広重や歌麿、光琳についての論文を投稿しています。

大正4年から刊行された浮世絵の本格的な研究雑誌「浮世絵」では、春信・湖龍斎・北斎・広重・歌麿等の周密な研究を発表し、技法・構図・色彩・線の描写などを事細かに解説し、一作者の作品群の中でも優劣をはっきりと指摘しています。特に、鈴木春信の色彩配色の巧みさに心酔しており、美人画へ傾倒していったことが窺えます。これらは簡潔で解り易い文章でまとめられているので、今日の私達にも貴重な文献資料となっています。 また、「浮世絵」では創刊から終刊の55号まで、第8号を除いた全ての表紙を五葉が描き、江戸初期以来の美人風俗の特徴をうまくとらえ描写しています。五葉は、版画の主要条件として色彩の配色及び調和が重要であると述べ、「浮世絵」の各表紙から色の変化による色調の違いが理解できるように考慮し、配色に関しての比較研究ができるように配慮工夫しています。

自己の新しい美術領域を見出そうと模索した五葉は、“研究なくしては美術の達成はありえない”との信念を持ち続け、研究の成果を版画制作にぶつけていきます。

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「浮世絵」第16号 浮世絵社  国立国会図書館蔵

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「浮世絵」第17号 浮世絵社  国立国会図書館蔵