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橋口五葉について~(6)~

2008-10-17

不満の残った第1作目の『浴場の女』から次回作を発表する大正7年までの3年間、五葉は浮世絵の復刻作業に取り掛かります。

大正6年、五葉自身が編集・監督した『浮世風俗やまと錦絵』(日本風俗図会刊行会)を刊行します。この本は、鈴木春信、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、安藤広重等の浮世絵版画名品・全240図(全12巻)の復刻版画が所収されています。浮世絵の変遷や歴史を体系化した浮世絵史図録としては国内最初のもので、表紙や扉の装丁はもちろん作品解説や木版復刻品の監督も五葉が担当しています。

その他、五葉の監修した復刻本として大正8年には『広重・保永堂版東海道五十三次』(全60図・岩波書店)や、大正9年には『歌麿筆浮世絵』(全48図・岩波書店)が刊行されました。これら五葉の復刻本は、次代の浮世絵研究に大きく貢献することとなり、復刻版画を制作する人々が必ず参考にするほど技術的にも優れていました。

こうした五葉の浮世絵版画の復刻作業には、二つの意図がありました。一つは、優れた浮世絵が海外に流出する現状を残念に思い、せめて名作だけでも再版し国内に残したいと考えたからでした。もう一つは、自ら版下絵を描くとともに彫師・摺師を直接監督する「私家版(自家出版)」としての版画制作を始める際に、問題となる彫師・摺師職人の人選とコミュニケーションの図り方をクリアできたのです。

そうして完璧を期した五葉は1918(大正7)年、第2作目となるオリジナル木版画を発表します。

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『浮世風俗やまと錦絵』 表紙

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『浮世風俗やまと錦絵』 帙