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橋口五葉について~(7)~

2008-10-19

大正7年、五葉は再出発の手始めに風景版画の大作『耶馬渓』、そして美人画の代表作『化粧の女』を発表します。この両作品とも、彫りは高野七之助、摺りは染川勘造が担当しており、その後の大半の作品の彫り摺りをこの二人が受け持っています。

五葉は、「必ずしも自画・自刻・自摺の創作版画でなければならないことはない。むしろ彫法・摺方の巧みな彫師・摺師と共同し、これを監督し作った方が都合のいい場合が多いと思う」と述べているように、腕の立つ彫師・摺師との協同作業で、実際に五葉自身の目指した版画作品を世に出したのでした。

『耶馬渓』は、当初から2パターン制作された風景版画で、色彩の変化によって異なった時間や季節の同場所の風景を感じることができます。雨の降りしきる田舎道を馬車が走る風情ある情景を、前景はくっきりと後景は霞がかかったようにぼんやりと強弱をつけ、隅々まで配慮された緻密さで描き出しています。

これは、明治43年の夏に別府・耶馬渓へ旅行に出かけた際のスケッチを基に制作されたもので、このスケッチ旅行は後の温泉場・浴場と女性を結びつけた美人画のテーマ発見となる収穫の多い旅行でもありました。

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『耶馬渓』 1918年(大正7年) 鹿児島市立美術館

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『耶馬渓』 1918年(大正7年) 鹿児島市立美術館