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橋口五葉について~(14)~

2008-11-02

五葉は、渡辺庄三郎のもとで処女作『浴場の女』一枚を制作すると、それ以後は独自の道を歩むことになりました。この頃、文展・院展等で風俗画家として注目されていた新進の伊東深水は、五葉より一年遅れた翌1916(大正5)年に版元・渡辺庄三郎のすすめで美人版画『対鏡』を発表しました。当時の二大美人画家と言われた五葉と深水の作品を少し比較してみたいと思います。

五葉の版画には、浮世絵の技法や表現形式に真正面から取り組んでおり、その構図は伝統的な落ち着きを感じさせられます。洋画出身者としての正確なデッサンや写生がそれを裏づけて、より上品で優美な女性を表現しています。

これに対して深水は、あえて構成をずらした視点で写生から一歩踏み込んだ恥美的なものを追及し、あでやかな色彩で妖艶さを、また一種のデカタンス的な怪しさや暗さといったものを漂わせています。

当時、深水の『対鏡』の値段が5円であり、少し制作年代は後になるが五葉の『化粧の女』と『髪梳ける女』が60円であったという価格差は、五葉作品が単なる複数制作が可能な版画ではなくオリジナル性の高い一枚制作と見なされ、完璧を求める五葉作品の希少性を当時の版画マーケットは知っていたからだと言われています。

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橋口五葉 『顔を洗う裸婦』

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伊東深水 『対鏡』