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橋口五葉について~(17)~

2008-11-10

これらの他に新版画家として、当時、役者絵の双璧と言われた山村耕花や名取春仙がいますが、彼らの作品には近代的な視点を持った新しい感覚と風格が感じられます。

名取春仙は、鮮やかな色彩と写実的な役者絵を得意としながらも美人画にも優れた作品を残しています。西洋画も学んだ春仙はデッサンの重要性を十分認識しており、役者の容貌を忠実に写し取り、着物の模様などの細かい部分にもこだわりを見せ優れた色彩表現をしています。これはデッサンと写実性にこだわった五葉と同じです。

春仙の作品にも『髪梳』という美人画があり、人物を画面に効果的に配し、足先にまで行き届いた繊細な色彩配色やひざに掛けた布の柄の精緻さなどから丁寧さが伝わってきて、可憐さの中に量感のある近代的女性を描き出しています。

これまで、五葉と新版画家たちの作品について簡単に触れてきましたが、それぞれが浮世絵版画を抜け出し独自の近代的感覚を取り入れ、作品には各自の個性が強く表われています。個性の違いはありますが、「大正新版画運動」の息吹を吹き込まれた新しい時代に相応しい新版画を制作したことは同じであると言えます。

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橋口五葉 『髪梳ける女』

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名取春仙 『髪梳』