北斎の風景画(2)
2009-06-27
それまで江戸の人々が目にしたことのない驚くほど大胆な構図や、当時の富嶽信仰にも支えられ大ヒットとなった「富嶽三十六景」(1831年)は当初36図で、好評を得て後に10図が追加され計46図のシリーズものです。
美人画や役者絵などの浮世絵は縦長構図が主でしたが、北斎が西洋画の風景描写を習得して自己流にアレンジ仕切ったこの富嶽三十六景は、鮮烈で迫力ある風景を横長に描きました。 それだけではなく、西洋から輸入されたベロリン藍(普通「ベロ藍」と言われます」)という発色のよい化学染料の青色を用いてベロ藍そのものの表現力も追求し、その魅力を強く印象づけることにもなりました。 このシリーズ作品全ての輪郭線が藍色で摺られてあり、藍摺りというベロ藍の濃淡のみで描いた作品も多くあります。「甲州石班沢」や「相州梅沢左」などは、通常では藍色にしないと思われる箇所までもベロ藍を使い柔軟性溢れた大胆な配色をしています。
自分の見方で風景を捉えることに成功した北斎の「富嶽三十六景」は、透明感ある青と共に新鮮な構図で、その後の風景画に強く影響することとなりました。
「甲州石班沢」東京国立博物館蔵
「相州梅沢左」山口県立萩美術館・浦上記念館蔵